第1期:テーマ「鱗」
そは現か幻か
燃え盛る炎の中から這い出てきた小さな蜥蜴は、俺を見て僅かに首を傾げた。黒い円らな瞳が、じっとこちらを見上げる。
その目が、まるでこちらの考えを見透かしているようで、俺は思わず目を逸らした。
手にした小瓶を握り締める。
小瓶を満たす液体を振り掛ければ、この炎の中に住む蜥蜴は眠ってしまうという。眠らせている間に腹を切り裂いて、胃袋を取り出せばいい。
蜥蜴は口をあけて、ぽっぽっと小さな炎を吐き出した。
身の危険が分かるのかもしれない。
まだ子供の蜥蜴を殺そうとしている自分が、ひどく残酷な存在に思えた。
けれども、炎を飲み込むことが出来ると伝えられる火蜥蜴の胃袋は、乾燥させて粉末にし他の薬品と組み合わせれば、死者を蘇らせる秘薬になる。
俺はどうしても恋人を蘇らせたい。その為にはどんなに卑劣なことでもしようと誓ったのだ。
そっと小瓶の蓋を取る。
手を伸ばして、蜥蜴の上で瓶を傾けようとした時だった。
「俺を殺すのか、ヨウタ」
その火蜥蜴が、数年前に失ったはずの恋人の声で言った。
秘密の友人
河童の友達がいる。
そう言っても誰も信じないかもしれない。
でもこれは、本当のことなんだ。
俺がまだ小さかった頃、夏休みに父親の実家へ遊びに行った。
そこは山に囲まれた、静かな典型的な「田舎」だった。隣家には将孝という同じ年頃の子供がいて、新参者の俺と一緒に遊んでくれた。
毎日毎日、山を冒険し、川で泳いだ。子供にはまったく天国のような場所だった。
そんなある日。
俺達は山を探検していて、淵のようなところへたどり着いた。将孝が言うには、川の主が住むといわれている場所で、そこには誰も近寄らないそうだ。
その日から、そこは俺と将孝の秘密の場所になった。
その淵の水はとても冷たく長時間は泳げなかったので、しばらく泳いだ後、真ん中にある岩の上で休むのがお決まりになっていた。
ある時、俺は岩によじ登ろうとして、足を滑らせ、脛に怪我をした。怪我自体はそんなに酷くなかったが、ずいぶん派手に血が出た。
子供だった俺達はすっかりビックリして、わんわん泣いた。
すると、あまりに泣き声が煩かったのか、川の中から生き物が出てきた。
河童だった。
頭の上には皿もあったし、甲羅を背負っていた。
その河童は、俺の脛の傷に、脇に抱えていたつぼの中から薬を塗ってくれた。
痛みがすっと和らいだ。
それでもまだ泣きべそをかいている俺達をもてあましたのか、河童は気まずそうに岩の周りをぐるぐる泳いで回った。
じっと見ていると、目が合った。
河童はにぱっと笑った。
その顔があんまり可笑しかったから、俺達もつられて笑った。
それから、俺達は友達になったのだ。
…これは、本当の話だ。
相棒との出会い
それを、こんなにも間近で見るのは初めてだった。恐怖と驚きと、若干の感歎とを込めてそれに触れる。ひんやりとした感触に思わず笑みを零した。
ドラゴンは火を噴くという。火を溜めた器官を内部に持つから、それを覆う鱗はこんなにも冷たいのか。
そのまま首筋を撫でるように手を動かす。
僅かではあったが、ドラゴンが擽ったそうに目元を動かした。
”名前は?”
問われて、慌てて手を離す。一歩退いて、姿勢を正した。
「マクレーン・ダイスです、サー」
”私はサイセンキンでいい”
「了解、…サイセンキン」
私の反応が可笑しかったのか、サイセンキンというそのドラゴンは低く笑う。気難しいものが多いと聞いていたが、彼はそれほどでもないらしい。
少し安心して、もう一度、鱗に手を伸ばす。
手に触れるサイセンキンの鱗は、冷たく、硬い。 手にした槍で衝いても、簡単には刺さらないだろう。
ああそれにしても、何と綺麗な青色だろうか。
これから命を預けあうことになる自分の相棒を、純粋に美しいと思った。
あとがき
> [設置当初〜2006/06/12]
このときの拍手は、3つとも「鱗」つながりでした。
・「そは現か幻か」
→サラマンダーよいですよね! 火蜥蜴に鱗があるのかは謎ですが、きっとその鱗で炎を防いでいると思います。
・「秘密の友人」
→私の中では、河童は鱗が生えた生き物なのです。いつかこのネタで話を書きたいと考えています。
・「相棒との出会い」
→竜騎士は本当に好きなネタなので、設定だけを変えて小説にも度々出てくると思いますが「またか」と温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
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