第4期:「シリアスちっくな11のお題」
シリアスちっくな11のお題/1.遠い
彼は帰ってしまった。
あの星よりも遥か遠く、僕が足を踏み入れることが出来ない世界へ。
くるりと腕輪を回す。
たったそれだけの行為で、彼は僕の前から消えうせた。
銀色の弦楽器を優雅に奏で、透き通るような声で歌う彼は、瑞々しい木々の合間に休む鳥ではあっても、華奢な鳥籠に囚われた哀れな小鳥ではなかった。
彼は鳥籠の小鳥となることを、とても畏れた。だから逃げた。逃げてここへ来た。
けれども、彼は追っ手から逃げ隠れするには、あまりにも目立つ鳥だった。その鈴が転がるような美しい歌声も、春の日を閉じ込めたような美しい容姿も、彼を木々の中へ溶け込ませるには似つかわしくないものだった。
彼は日々黒い影に怯え、怪しげな物音に怯え、その神経を磨り減らして行った。僕の慰めにも、弱々しく笑うばかりだ。
そして、僕の家の庭先に首の骨を折られた犬が投げ込まれたその日、彼は消えた。
追っ手が僕に危害を加えるのではないかと、懼れたのだ。
ああ、ジェノア。
美しい僕の小鳥よ。
君はなんて健気なのだろう!
君はなんの心配もしなくて良かったのだ。僕は傷つけられたりはしない。君が逃げ場所に選んだ男は、その気になれば君をずっと遠くへ連れ去ることも出来たのだ。
彼と僕の住む世界は、あまりにも違う。だから君が僕の力を知らなかったことは、当然とは言え最大の不幸だった。
ああ、優しいジェノア。
君が逃げ場所に選んだ男は、この世界に君臨する4人の荒鷲のうちの1人だったのだ。
けれども君は去ってしまった。
くるりと腕輪を回す。
たったそれだけの行為で!
同じ時の同じ場所にいながらも次元という壁が阻む君の世界の、その何と遠いことか。
シリアスちっくな11のお題/2.海の底
忘れられない光景がある。
透き通った海の底、白い骨が点々と連なって砂に埋もれている。
茶色い砂の中に、半ば埋もれるように白い塊が、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ…。
あれは鯨の骨だと、誰かが言った。
死んで沈んだ鯨の背骨なのだと。
私は想像する。
鯨はきっと、ゆっくりと、とてもゆっくりと、羽が軽やかに空中を舞って地面に落ちるように、静かに沈んでいったに違いない。
そしてまた、ゆっくりと骨になっていったのだろう。
そこに悲しみはあったのか。
あるいは血なまぐさい場面であったのかもしれない。
けれども、残った骨はこんなにも神々しい輝きを持って、私の目に飛び込んできた。
私は想像する。
かつて、大航海時代と呼ばれていた昔。
海に沈んだ何千何万という船や書物、宝物、そして水夫や海賊たち…。
彼らの痕跡も、このように神々しいまでの神秘さを持って、私の目に飛び込んでくるのだろうか。
シリアスちっくな11のお題/3.闇の中で
※性描写注意!
噛み締めた唇から、微かに漏れる吐息。
「…ぁ……く」
声を聞きたいと思って、どうしたらもっと声を聞けるのか考える。
出せと言われて出すような男じゃない。
ふと思いついて、繋がったまま身体を裏返した。
「あぁっ!」
その声に満足する。
向き合う形になった男を見下ろして、足を抱え上げる。びくりと、男の身体が跳ねた。
「っ…やめ」
「…邪魔だろ?」
言いざま、より深くに入り込んだ。声もなく仰け反った男の、露になった喉に舌を這わす。程よくついた筋肉に、ああ彼も男なんだと、ぼんやりと思った。
男である確かな証に手を伸ばす。そこはすでに解放を求めて震えていた。軽く擦りあげてから、おもむろに根元を握り締める。同時に律動を激しくしてやると、男は、低い、うめきに似た声を漏らした。
その声にすら欲情して、伸び上がって男の顔を覗き込んだ。
切れ長の目の端に浮かぶ雫に、苛虐心を煽られる。
もっと、見たい。
普段は光の中でまっすぐに顔をあげるこの男を、もっと泣かせたい。
そう思って、それを実行するために男の証を握り締めた手に力を込めた。
あとがき
> [2006/09/08〜2006/10/19]
このときの拍手は、11-SHOPさまから「シリアスちっくな11のお題」をお借りしました。
「シリアスちっくな11のお題」
1.遠い
2.海の底
3.闇の中で
4.誰かが呼んでる
5.慟哭
6.もう、なにも望まない
7.雨の音
8.一緒に居られないのなら、いっそ
9.もう いない
10.血塗られた過去
11.どこにいるの?
・「1.遠い」
→「世界に君臨する4人の荒鷲」という言葉が使いたくて書いたもの(笑)。というのは冗談ですが、異世界トリップが好きなので。
・「2.海の底」
→BLではないですが、こういう雰囲気の話が大好きです。クジラの骨のイメージはとても強くて、私の中では「海の底=墓場」になっています。
・「3.闇の中で」
→闇っていったらねえ?
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