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第6期:「シリアスちっくな11のお題」

シリアスちっくな11のお題/7.雨の音

 ガラスが割れるのではないかと怖れた。
 叩きつける雨粒は激しく、今にも窓ガラスを割ってしまうのではないかと思える。
 泣きたいのはこっちだ、と布団の中で悪態をつく。
 それから、雨のことを空の涙と表現したのはアイツだったと思い出して、ますます泣きたくなった。
 甘えていたと言われてしまえば、こちらに反論の言葉はない。
 そうだ、甘えていたんだ。
 アイツを失うわけがないと思っていた。
 俺たちはずっとずっと良い関係を保っていて、俺はそれで満足していた。いや、満足していたつもりになっていた。
 なんてことだ。アイツを失うこの時になって、俺がちっともこの関係に満足していなかったことを思い知らされる。
 こうやって不貞寝してみても、何も変わらないこの段階になって!
 空は相変わらず号泣だ。
 俺はもそもそと布団から抜け出して、ちゃぶ台に一枚だけ置かれたハガキを手に取った。
 何度も読み返してすっかり暗記してしまった文面を、もう一度読み返す。
 お決まりの文句の下、アイツの文字で小さく「久し振りに会えるのを楽しみにしている!飲もうな」と書いてあって、その俺が断わるはずがないという彼の思いが、なんだか悲しくもあり、嬉しくもある。
 そうだ、俺とアイツは良い関係だった。それで満足しようじゃないか。
 そう自分に言い聞かせて、その辺りに転がっているボールペンに手を伸ばす。
 馬鹿みたいに震える手を押さえながら、「出席」に丸をつける。その側に字が震えないように気をつけながら、「結婚おめでとう」と小さく書いた。
 ぽたん、と雨粒が一滴、ハガキの上に落ちて文字を滲ませた。

シリアスちっくな11のお題/8.一緒に居られないのなら、いっそ

 氷の精ラ・モタンナは、燃え盛る炎を見てごくりと生唾を飲み込んだ。

「怖いのか?」

 水の精ピラ・レスタが馬鹿にしたように尋ねる。

「そんなわけないだろ」
「ならいいが。ほら、思い切って飛び込んでしまいな」

 促されて、ラ・モタンナは一歩、炎へ近付いた。
 じりじりと肌が焼かれる音を、ピラ・レスタは聞いたように思った。
 慌てて首を振り、その音を否定する。肌など焼かれないのだ。ラ・モタンナは氷の精なのだから。
 ラ・モタンナは洋服の裾をぎゅっと握り締め、呪文を唱え始めた。
 彼の胸元に刻まれた印が、力を受けてキラキラと輝き出す。やがてその印は、氷で形作られた薔薇になって砕け散った。
 ピラ・レスタは、それを複雑な気持ちで見やった。
 炎に飛び込んだラ・モタンナは、水にすらならず、一瞬で気体となって消えうせるだろう。
 氷の精が水の精になる術はない。
 ラ・モタンナとピラ・レスタは、共に歩めない。彼らの間には、決して越えることの出来ない深い深い溝があるのだ。
 水の精は、氷の精に近付きすぎると死んでしまう。氷になってしまうのだ。
 氷の精は、水の精に近付きすぎると死んでしまう。水になってしまうのだ。
 どうしても水を越えられないと分かった時、ラ・モタンナはピラ・レスタが愛して止まない最高の笑顔で言った。


 一緒にいられないのなら、いっそ




 二人で死のう?

シリアスちっくな11のお題/9.もう いない

 ユウはタカのことが好きだったという。
 あのあどけない顔で、タカのことが本当に大好きだったと、嬉しそうに語る。
 ミタカはその笑顔を見る度に、ユウに申し訳ないと思う。
 ユウは、タカが死んだ時その場にいなかった。だから、タカは事故で死んだと、本当に信じているのだろう。
 ミタカは子供の頃からユウの世話をずっと任されていて、だからタカが現れて、すっとユウの心の中心に居座ったことを、嬉しいような、寂しいような気持ちで眺めていた。
 ユウとタカは本当に仲が良くて、だからこそ、族長はタカの存在を恐れた。ユウの心を揺るがすのではないかと。
 ユウはミタカたちにとって特別な存在だったから、タカのことを快く思わない者も多かった。
 だから、ある日、タカは死んだ。
 ユウは知らない。タカいつ、どこで、どのように死んだのか。
 ただ、彼がもう自分のもとにやってこないことだけを理解した。
 ユウを空に例えるなら、タカがそこの太陽だった。幼い頃から彼の面倒を見続けてきたミタカでさえ、ただの雲や風のような存在だっただろう。タカは、ユウの空の要だったのだ。
 ユウは微笑んで、ミタカにいう。
 タカのことが本当に大好きだったと。
 それから、話を変えるように「早く天気にならないかな」と呟く。
 ミタカは、煌々と輝く太陽を見ながら、それに相槌を打つ。

 タカは、ユウにとって太陽のような存在だった。
 だから、ユウの空には、もう太陽はいない。

シリアスちっくな11のお題/10.血塗られた過去

 一生懸命、箱の中に閉じ込めようとした。
 この気持ちがあふれ出さないように。
 僕の心の中には、1つの箱があって、その箱はさして大きくもないくせに色んな物を飲み込んでくれた。
 その箱は漆のように真っ黒に塗られていて、僕はその中を覗くのが怖かった。
 どこまでも深く、底が見えなくて。
 その深淵の向こうから、何か怖いものがやってくる。
 だから、決して箱の中を覗いてはいけないと、僕はそう信じている。
 けれども、この箱はこの気持ちを飲み込んでくれない。
 もう一杯になってしまったのだろうか?
 僕は必死に押し込めようとしたけれど、やっぱり無理だった。
 代わりに何かを出さなくてはならない。
 そう思って、僕はついに箱の中を覗き込んでしまった。


 むやみに、箱の中を覗き込んではいけない。
 その深淵の向こうから、どろりと、押し込めた過去が戻ってくるのだから。

シリアスちっくな11のお題/11.どこにいるの?

刮目せよ
刮目せよ

広き大地に汝は立つ

行け、探せ、見つけよ!

黄金色に輝く湖ありて
そは汝を導く

栄光を得よ、勝利を得よ、信頼を得よ

そして何より、伴侶を得よ

刮目せよ
刮目せよ

広き大地に汝は立つ

行け、探せ、見つけよ!

そがために大地はある

あとがき

> [2006/10/19〜??]
このときの拍手は、11-SHOPさまから「シリアスちっくな11のお題」をお借りしました。
「シリアスちっくな11のお題」
1.遠い
2.海の底
3.闇の中で
4.誰かが呼んでる
5.慟哭
6.もう、なにも望まない
7.雨の音
8.一緒に居られないのなら、いっそ
9.もう いない
10.血塗られた過去
11.どこにいるの?


・「7.雨の音」
 →友人に恋からの悲恋。好きなタイプの話です。
・「8.一緒に居られないのなら、いっそ」
 →正直なところ、あまり気に入っていない話です。でも、水の精や火の精の話はいつかちゃんと書きたいですね。
・「9.もう いない」
 →この話は文句なしに気に入っています!!「タカは、ユウにとって太陽のような存在だった。」というフレーズがポンと浮かんで書き出した話です。
・「10.血塗られた過去」
 →短い話ですが、書いていて楽しかったです! でもBLではないですね。
・「11.どこにいるの?」
 →このお題、誤魔化した感満載ですよね。ごめんなさい。でも楽しかったです!

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