ハロウィンの翌日

 古代ケルトでは、この日に太陽が死ぬと信じられていた。
 太陽は一度死の闇に沈み、翌日生まれ変わって再び天に昇る。
 太陽が死んだその夜はあの世とこの世の区別があいまいになって、この世ならぬものが通りをうろつくから人間は十分に気をつけなくてはならない。とくに、見知らぬ人間を家の中に引き込むなんてもってのほかだ。



「…ウソだろ」

 大地は寝ぐせのついた髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながらつぶやいた。
 見慣れた天井、見慣れたベッド、見慣れたシーツ、その中に横たわる見慣れぬ男。
 もう一度室内を見渡してそこが自分の部屋であることを確認した大地は、あきらめてため息をついた。どうやら自分は昨夜、どこからか男を部屋へ引き込んだらしい。
 昨夜の行動を思い出してみる。確か昨日は、仕事終わりに友人に誘われていきつけのバーへ行った。バーはハロウィンで盛り上がっていて、店員も客もコスプレをしたり、意味のわからないゲームをしたりしていた。おれはなんだかんだでその空気が楽しかったから、翌日(つまり今日)が休みということも手伝って朝まで飲んだのだ。そうしてだいぶ酔っぱらって…それから、

「ん…」
「!」

 隣に寝ていた男がわずかに身じろいだ。大地は驚いて動きを止めてしまったが、男は寝返りをうっただけのようで起きる気配はない。良かったと胸をなでおろして男を見やった大地は、今度こそ絶句した。
 男が寝返りをうったためあらわになった背中には、何か黒いものがついていた。いや、生えていたという方が適切かもしれない。男の背中からは、こうもりのような黒い羽根が生えていた。
 飾りだろうか、と大地は思った。昨日のバーではコスプレをしている連中が多かったから、彼をそのバーで拾ってきたのならその名残かもしれない。 そっと手を伸ばし、黒い羽根を掴む。どうやってくっつけているのかは知らないが、引っ張ったら取れるだろうと思いっきり引っ張った。その途端、

「ってええ!!」

 男ががばりと飛び起きた。振り返って、キッと睨みつけてくるその眼にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「なに引っ張ってんだよ!」
「いや、寝にくそうだったから…」

 取ってあげようと思って引っ張りました、と男の剣幕に思わず敬語で話す大地に、男はあきれたようにため息をついた。

「あのね、引っ張ったってとれないから、コレ」
「? …あ、ベンジンとかアルコールとかでふき取らなきゃってこと?」
「薬品でふいても取れねえよ!」
「じゃあ、どうやってくっつけてんだよ?」
「くっつけてんじゃねえよ、生えてんだよ! 肌の下から!」

 骨もつながってんの! と男は再びわめいた。短めに切りそろえた黒髪が、ふわふわと揺れる。せっかくきれいな顔なのにな、と大地は思った。羽根が生えてると言うなんて、ちょっと頭は危なそうだけど。

「…お前、今、頭おかしいんじゃないかと思っただろ」

 ぎろりと男が睨みつける。

「いや、そんなこと…。っていうかさ、その羽根邪魔じゃない? ハロウィンも終わったんだし取れば?」

 大地の言葉に、男はまたもや叫んだ。

「だから、取りたいからって取れるもんじゃねえんだよ!」
「…へえ?」
「お前、信じてないだろ」

 言うなり、男は大地の手を掴んで自分の羽根に触れさせた。そして、背中から生えたその黒い羽根を広げて見せる。
 黒い羽根は大きく広がって、大地と男を包み込んだ。羽根に触れている大地の掌に、生温かい感触と時折動く筋肉の厚みが伝わってくる。

「おれ、悪魔だから」
「……はああ!?」


ハロウィンの夜、飲みすぎにはご注意を
(ちなみに、お前が誘ってきたんだからな、綺麗な羽根だねって)
(…とりあえず服着てください)

END

あとがき

> [2010/10/31]

ハロウィンの翌日の話。猫耳と悪魔とどっちにするか迷いましたが、猫は別にハロウィン以外でも書けるなと思ったのでこちらで。
感想や誤字・脱字報告をいただけると嬉しいです!