真っ黒な塊が、まるで風のように頭上に落ちてきた。ギンは激しい力で体が押し倒されるのを感じた。バランスを崩した彼の体は右側に傾いて地面に倒れこんだが、ギンは力を振り絞って再び立ち上がった。息をつく間もなく走り出す。
落ちてきた塊は、無言で翼を広げて再び舞い上がった。
はあはあと自分の息をする音が聞こえる。前足が地面に着くたびに走る左肩の痛みは、先ほどのアタックで鉤爪が食い込んだのだろう。
塊は、再び風のような速さで襲いかかってきた。ギンの体は今度こそ地面に押さえつけられ、鋭い爪が肉を切り裂く。
ギンは必死に体をひねって、その爪から逃げようとした。けれども、彼を捉えるオオタカの足はますます力を増すばかりだった。そこでギンはなりふり構わず体を起して、自らを捉える足に噛みついた。
「へえ」
それまで無言だったオオタカが、低く言葉を発した。その直後、するどい嘴がギンの頭めがけて降ってくる。ギンが覚えているのはそこまでだった。
ギンが目覚めたのは、暗い穴の中だった。身を起こしたギンは、すぐ隣にあの猛禽がいることに気づいて体をびくりと震わせた。
オオタカはギンが目覚めたことに気づくと、その鋭い爪でギンを再び押さえつけた。そのまま、ギンの背中に乗り上げる。種族の違いはあったが、オオタカの行動が何を示しているのかをギンの本能は瞬時に理解した。ギンはぞくりと背筋を震わせ、残る力で必死に抵抗した。ギンが体を動かして暴れる度に、オオタカの爪はするどく食い込んでくる。オオタカが満足してギンの上からどく頃には、ギンはぐったりと倒れこんでいた。
次にギンが目覚めたとき、穴の中にオオタカの姿はなかった。代わりに、死んだばかりの野ネズミが置かれていて、ギンは背筋を凍らせた。自分もああなるかもしれない。すぐに逃げ出そうとしたが、オオタカの爪に切り裂かれた体は、ギンの言うことを聞いてくれなかった。
夜になった。羽ばたきの音がして、あのオオタカが姿を現した。オオタカはギンの足元に野ネズミの死体があるのをみて、目を細めた。それから足に挟んだウサギをどさりとギンの側に放り投げる。
「ネズミは嫌いか」
問いかけにギンは答えなかった。体を丸めて小さくなる。オオタカはため息をついたようだった。
「ならウサギを食べろ」
ギンは丸まったまま、オオタカを睨みつけた。オオタカは怯むことなくギンを見下ろしている。
「お前、なんなんだ」
絞り出した声はひどくかすれていた。
ギンの身も蓋もない問いかけに、オオタカは低く笑った。ギンがこの中型の猛禽に気に入られたことだけは確かなようだった。
END
あとがき
>[2011/07/25]
キツネと猛禽シリーズ第二弾です。捕食者と被捕食者の関係。
ところで、鳥の交尾って入れないらしいですね。くっつけるだけ。まあ、今回はそういうこと気にしない方向で。
感想や誤字・脱字報告をいただけると嬉しいです!