包帯のマミー、シーツのゴースト:前書き

ご注意

  • 透明人間→人間?
  • 初恋/ほのぼの/性描写・無/ハロウィン企画
  • 友情以上恋人未満の話…というか、初恋の始まりの話です。
  • 目指したのは、絵のない絵本。
  • 原稿用紙およそ16枚
  • 苦手な方は、お戻りください。⇒TEXTTOP

包帯のマミー、シーツのゴースト

 ジェーンは南の町に住む透明人間です。透明人間とは珍しいですが、南の町にはモンスターしか住んでいないので、誰にも驚かれる心配はありませんでした。
 ジェーンは14歳。体は大きいけれど、心根の優しい男の子です。普段は北の町にある学校に通っており学校に隣接している寮で暮らしていますが、今は長期休暇で家に戻ってきているのでした。休暇は、太陽が衰えてきた9月から、太陽が死に絶えて、それから若々しく生まれ変わってくる11月まで続きます。太陽が一度死ぬ10月の暮れには、人間の世界ではハロウィンが行われます。ジェーンたちモンスターの子どもは、人間の世界のハロウィンの仮装行列に忍び込んで遊ぶのが毎年の楽しみです。彼らにとっても、この日はにぎやかなお祭りの日なのです。
 ハロウィンの前日、ジェーンの家に友人のマイケルとチャックがやってきました。これから明日の仮装の打ち合わせをするのです。

「やあ、マイクにチャック、いらっしゃい」

 ジェーンは嬉しそうに二人を出迎えました。今日は薄い灰色のシャツに、夕べ誕生日プレゼントとしておばあさんから貰った深緑色のループタイを合わせています。二人はすぐにタイに気づいて言いました。

「やあ、ジェーン。そのループタイ、もしかしてプレゼントだったの?」
「そうなんだ、夕べおばあさんから貰ったんだ」
「へえ、見せてみなよ」

 二人は言いながら、勝手知ったる他人の家とばかりにジェーンを大きな姿見の前へ引きずっていきました。こうしなくては、ジェーンの髪や肌の色に合っているか分からないからです。なにせ、ジェーンは透明人間なのですから!
 透明人間の姿は目には映りませんが、鏡には映ります。鏡に映ったジェーンを見て、マイケルとチャックは口々に「似合っている」「良かったね」を言いました。なるほど、確かにジェーンの銀色の髪によく似合っています。
 それから二人は、自分たちの持ってきたプレゼントをジェーンに渡しました。マイケルとチャックは二人でお金を出し合って、ちょっと良いカメオを買ったのです。ジェーンはすごく気に入って、さっそくおばあさんから貰ったループタイにつけました。
 それから、ジェーンの部屋で相談を始めました。まず、マイケルが言いました。

「俺は、いつも通りそのままいくよ。ちょっと派手な服を着てさ」

 マイケルは狼男なのです。人間の子どもにも狼男の仮装をする子がいますから、マイケルはそのままでも仮装しているように見えるのでした。

「そうだね、サンセット墓地を見学に行った時に君が着ていたあの赤いジャケットなんかいいんじゃない?」

チャックが言うと、ジェーンもそうだと頷きました。マイケルは驚くほど赤いジャケットが似合います。サンセット墓地見学の時のマイケルは、赤いジャケットに黒いパンツを合わせていて本当にカッコ良かったのです。マイケルは照れたように笑って、「じゃあ、そうするよ」と答えました。

「チャックは、今年はどうするの?」
「どうしよっかな」

 チャックは首をかしげました。彼はスケルトン…骸骨人間なので、そのままというわけにはいかないのです。

「ゴースト、とかどうかな?」

 マイケルが言いました。

「ああ、人間の子どもが時々している仮装だね。シーツを頭からかぶって、目の部分に穴を空けて…ってやつ」

 ジェーンが続けると、チャックは面白そうに「それは良いね」と言いました。

「長いシーツを被っていれば、手が骸骨だって驚かれないもんな」

 そこで三人は早速シーツを貰って、穴を空けました。ガムテープを張って口を描いて、画用紙で作った舌も張って、完成です。お母さんが、シーツが落ちないように裾を何箇所か縫ってくれました。当日は黒いジーンズを履いて、これを被ります。
 次はいよいよジェーンの番です。ジェーンも透明人間ですから、そのままというわけにはいきません。

「チャックと同じにする?」
「でも、それだと面白くないよね」
「うん」

 三人は頭を悩ませました。去年はどうしたっけ? 顔と手足に色を塗ったんだよ。途中で色が落ちてきて焦ったよ。
 やがて、マイケルが叫びました。

「そうだ! マミーだよ、全身に包帯を巻くんだ!」

 それはとても良い考えでした。三人は家中から包帯を探してきて、マイケルとチャックがジェーンの顔と手と足に巻いていきます。ジェーンの大きな体にくるくると包帯が巻きついて、透明な部分をすっかり隠してしまいました。

「なかなか良いんじゃない?」

 三人は口々に言い合って、満足そうにうなずきました。これで準備は万端です。


*****


 翌日の夕暮れ、三人は連れ立って人間の町へ向かいました。人に見られぬようにこっそりと町に入り込みます。
 祭りはもう始まっていました。広場で焚かれた火は赤々と燃えあがり、今にも沈まんとする太陽を彩っています。人々はそれを見ながら談笑し、子どもたちは手にカブやカボチャのランタンを持って家々を回っておりました。

「賑やかだね、俺たちもすぐに混ざろう」

 マイケルが言うのに、ジェーンもチャックも頷いて答えます。
 三人はそっと子どもたちの列に加わりました。気づく者は誰もいません。子どもたちはみな、様々に着飾って楽しげに笑っています。三人が混ざった列の他にもいくつかのグループが家々を巡っているようで、時折、仮装した子どもたちとすれ違いました。
 ふと見ると、向こうから来るグループに吸血鬼のラッドの姿がありました。黒いマントを着て、自前の牙があるのにわざわざ紙で作った牙をつけていました。三人はそれを見て笑いあいました。ラッドも三人に気づいて、小さく手を振りました。
 まったく楽しい夜でした。
 キャンディの雨、クッキーの霰、チョコレートの嵐。
 挨拶は「Tric or treat!」。
 人間の子どもと話をするのも、今夜だけです。子どもたちは様々な話をしました。あそこの家で貰ったクッキーはおいしかった、母さんが勉強しろってうるさいんだ、うちは父さんがうるさくて、それ狼男の仮装? まるで本物みたい!…。
 その内、マイケルが「向こうのグループに混ざってくる」と言って駆けて行きました。チャックもジェーンも、それぞれ別のグループに混ざりました。待ちあわせ場所は町はずれの墓場です。
 本当に楽しい夜でした。ジェーンは人間の子どもたちに混ざって、楽しく夜を過ごしました。
 そうやってはしゃぎながら、建物の角を曲がったときのことです。

「あっ」
「あっ」

 どしんと体に衝撃を感じて声をあげると、向こうからも小さな声が聞こえました。どうやら角を曲がったときに、反対側から同じように角を曲がった相手にぶつかったようでした。見ると、相手はぶつかった拍子に尻もちをついてしまったようです。ジェーンは慌てて相手を起こしました。

「大丈夫?」
「大丈夫」

 相手は答えました。声から察するに、どうやら男の子のようです。ゴーストの仮装をしていました。白いシーツを頭からかぶり、目の部分に丸く穴を空けてあります。ゴーストは口を開けて、紙で作った舌を出していました。シーツの裾からは白いズボンが覗いています。ズボンから出た足には、シーツの白に合わせたのか包帯が巻いてありました。

「君、マミーの仮装なんだ。包帯を巻くのは大変じゃなかった?」

 立ち上がり、ズボンの埃を払った少年が尋ねました。

「友達が巻いてくれたから。君はゴーストだね」

 ジェーンの言葉に少年は頷きます。それから二人は、一緒になって歩き出しました。

「君、どこへ行くつもりだったの」
「どこへってあてはなかったけど、向こう側の緑色の屋根の家で貰えるクッキーが美味しいって聞いたから。君…えっと」
「あ、僕はジェーンっていうんだ」
「よろしく、ジェーン。俺はケン」
「よろしく、ケン」

 ジェーンは差し出された手を握りました。ケンの手はジェーンの手よりも小さいけれど、とても暖かでした。
 二人は歩きながら様々な話をしました。偶然にも二人は同じ歳でした。同じ歳でしたが、ジェーンは人よりも大柄な少年でケンは少しばかり小柄な体型だったので、二人は兄弟のように見えました。

「好きで小さいわけじゃない」

 と、ケンは少しむくれて言いました。ケンはジェーンの大きな体が羨ましいと言います。けれどもジェーンは大きな体で損ばかりしていたので、彼の小さな体を羨ましく思いました。
 気づけば、月は隠れていました。辺りを照らすのは、ケンの持つランタンの明かりだけです。明かりはほのかに二人と周りの建物を照らしていました。

「あ、ここはカメオ細工の店だね」

 看板に気づいたジェーンがそう言うと、ケンもランタンを持ち上げて看板を見て、「そうだね」と言いました。

「僕、一昨日が誕生日だったんだ。それで、友人たちからカメオをプレゼントして貰ったんだ」
「へえ、どんなもの?」
「えっと…中央に馬の横顔があって…」

 ジェーンは、似た細工のカメオがないかと、ショウウィンドウの中を覗き込みました。ケンがランタンを掲げて見やすいようにしてくれました。

「馬の顔…あの、左の端にあるものみたいなもの?」

 後ろからケンが言います。ジェーンは彼がさしたカメオを見て、首を振りました。

「馬が反対向きなんだ。僕が貰ったのは右向き」

 言いながらも、ジェーンの視線はショウウィンドウの中に並べられたカメオの上を滑って行きます。左端から右端へ行き、一段下がって、今度は右端から左端へ。更にその下の段へ視線を移したとき、ジェーンはショウウィンドウのガラスに自分とケンの姿が写っていることに気づきました。包帯を全身に巻いた自分、その肩の向こうに、おそらく見やすいようにでしょうシーツを脱いだケンの顔が写っています。ケンは勝ち気そうな吊り上った目をしていました。髪の色は金色でしょうか。ランタンの光にきらきら光っているのが、不鮮明なガラスの像からでも分かります。ジェーンは思わず、ケンの顔に見とれてしまいました。なんて綺麗な少年でしょう! 少し俯きがちにカメオを見ている顔にはどことなく憂いがあり、ジェーンは心臓がドキドキするのを感じました。
 ジェーンがそのままガラスに映ったケンの顔を眺めていると、やがてゆっくりとケンが顔をあげて、ガラスごしに二人の視線がばちりと合いました。その時の衝撃を、なんと表現したら良いのでしょうか。ジェーンは、ケンが驚いた顔をして慌ててシーツを被るのを残念に思いました。けれども、ずっと人の顔を見ていたなんて気恥ずかしくて、何より心臓がうるさいくらいの音を立て始めたので、そっと息を吐き出して何食わぬ顔で言いました。

「あの、一番下の段の右側にあるものに似ているかな」
「綺麗だね」

 シーツを被ってゴースト姿に戻ったケンが言いました。

「うん、気にいっているんだ」
「良かったね。今度見せてよ」

 いいよ、と答えようとして、ジェーンは迷いました。次に会う時はどんな格好で会えば良いのか分からないのです。ジェーンは透明人間ですから、そのまま会えばケンは驚いてしまうでしょう。

「そういえば、ジェーンはどこに住んでいるの?」

 この質問にも、ジェーンは少し口ごもりました。それでも、

「普段は北の方の町に住んでいるおばさんの家から、学校に通っているんだ。今は休みで戻ってきているだけ」

 何とかそう答えました。それから、ケンを見て言葉を続けます。

「ケンはどこに住んでいるの?」
「あ、えっと、俺は最近近くに引っ越してきたんだ」

 ケンはそう言って笑いました。

「近くって?」
「ん、と、南の方」

 ジェーンはもっと詳しく訊きたいと思いました。彼はすっかりケンのとりこになってしまったのです。しかしケンはそれ以上話をしたくないようでしたので、ジェーンは「この町に来れば、また会える?」とだけ尋ねました。
 ケンは少しだけ考えるようにして、それから右手を挙げました。何かひらめいたのか指を立てたようでした。腕の動きに合わせてシーツがゆらゆらと揺れました。

「いつでもは会えないけど、待ちあわせをしよう。来年のハロウィンの夜に、この店の前で」

 それはとても素敵なアイデアに思えました。ジェーンは嬉しくなって、何度も頷きました。

「僕は来年も包帯のマミーの仮装でくるよ」
「じゃあ俺は、シーツのゴーストで」

 二人は笑いあい(と言っても、お互いの顔は包帯とシーツに隠されて見えないのですが)内緒の約束をして、そこで別れました。
 マイケルやチャックとの待ちあわせ場所である墓場へ急ぎながら、ジェーンは胸のあたりがほんわりと温かくなるのを覚えました。いつの間にか、再び月が出ていました。月はケンの金色の髪のようにきらきら輝いていました。

「ジェーン、遅いよ! 早く町に戻らなきゃ」

 チャックの声が聞こえます。ジェーンは慌てて包帯の下の笑みを隠して、小走りで墓場で待つ二人に近づきました。


*****


 さて、これから話すことは、ジェーンがハロウィンの夜に体験した淡い思いがその後どうなったかという蛇足にしかすぎません。けれど、折角ですから皆さんにもお伝えしておきましょう。
 ハロウィンの翌日のことです。夜更かしをしたジェーンが起きたのは昼過ぎでした。慌てて顔を洗い、白いシャツを着て、黒いパンツを履きました。おばあさんから貰った深緑色のループタイもつけます。ループタイには、マイケルとチャックが贈ってくれたカメオがすでに取り付けられています。
 それから、ジェーンはベットを直しました。ベッドの脇には、昨日使った包帯が解かれたままぐるぐると落ちています。そこへ、一階からお母さんが声をかけました。

「ジェーン、ちょっと降りてきなさい」

 ジェーンが一階へ降りて行くと、リビングにはお母さんとは別に二人の透明人間がいました。片方は女性のようで、綺麗な若草色のスカートを着ています。もう片方は子どもで、黒いシャツに黒いパンツを着ていました。二人は親子なのでしょう。
 ジェーンの姿を見ると、二人は立ち上がりました。お母さんが、ジェーンを側に呼んで説明します。

「先週、向かいに引っ越してきたマイネさんよ。お前、まだ挨拶してなかったでしょう?」

 お母さんの言葉に納得して、ジェーンは二人に向ってお辞儀しました。

「こんにちは、マイネさん。ジェーンです」

 二人も同じようにお辞儀をして、女性の方の透明人間が言いました。優しい声でした。

「こんにちは、ジェーン。私はカーチス・マイネです。こっちは、息子のケン。少し小柄だけど、貴方と同じ歳よ」
「ケン君は、新学期から貴方と同じ学校に通うのよ」

 お母さんが付け加えます。けれども、ジェーンは何も答えられませんでした。驚いてキッチンの脇にリビングが写るように取り付けられた鏡を見ますと、金色の髪で、勝ち気そうに目が吊り上がった、黒いシャツ、黒いパンツ姿の少年が、鏡越しにジェーンを見ていました。

「ケン!」
「やあ、ジェーン。それが、友達から貰ったっていうカメオ?」

 ケンは微笑みます。ジェーンも微笑みました。どうやら、来年の待ち合わせは必要ないことになりそうです。

 それから、新学期になってケンが転校してきました。ケンも寮に入ったので、二人はとても仲良くなりました。ケンはすぐにマイケルやチャックとも仲良くなって、来年のハロウィンには、マイケルとチャックと、ジェーンとケンの四人で人間の町に出かけようという話をしています。
 ジェーンは、ケンがマイケルやチャックと仲良くなって嬉しいのですが、時々悔しいような寂しいような、変な気持ちになります。それどころか、ケンと二人で勉強したり映画を見たり食事をしたりしていると、ドキドキと心臓が高鳴ったり、緊張してしまうことがあります。ジェーンはそういう時、どう対処していいのか分からないのでした。分かるのは、これがジェーンの初恋だということです。

END

あとがき

> [2008/10/12] > [2009/02/07 加筆修正] > [2016/06/04 加筆修正]

ハロウィン企画の短編でした。タイトルを「包帯のマミー、シーツのゴースト」としましたが、マミーが包帯なのって当たり前ですよね…。
思ったよりも長くなってしまって申し訳ありませんが、この話はダウンロードフリーになっていますので、どうぞご希望の方はご自由にお持ち返り下さい。
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