ご注意
- 蛇×人間
- パロディ/コメディ/人外(蛇)/変身
- 昔話「蛇への嫁入り」のパロディです。昔話でパロディ(しかもほぼオリジナルストーリー)は嫌、昔話でBLなんて許せない!という方はご注意下さい。
- 人外ではありますが、蛇は人間に化けています(擬人化ではない)。
- 原稿用紙およそ11枚
- 苦手な方は、お戻りください。⇒TEXTTOP
昔むかしのお話。
とある村で、日照りが続いておりました。田んぼはすっかり干上がって、このままでは餓死者が多く出ることでしょう。どこの田んぼでも、必死に水を確保しようとしていますが、川が枯れてしまってはどうしようもありません。
そんなある日、ひとりの男が干上がった田んぼの前で途方にくれておりました。水を引こうにも水がないのですから、当然です。男はため息をつき、そして独り言をこぼしました。
「この際、狐でも鬼でも蛇でもいいから、雨を降らせてくれぬかのう」
それは独り言のつもりでしたが、独り言にはなりませんでした。応えた者があったからです。
「雨を降らせたら何をくれる?」
男が驚いて声のする方を見ますと、一匹の白い蛇が、田んぼの畦の近くから男の方を見ておりました。どうやらその蛇が、男の独り言を聞きつけて、話しかけてきたようです。
男は驚きながらも、反対に問いかけました。
「何が欲しいんだ?」
「そうさなぁ…」
蛇は少し考え込みました。何か目的があって話しかけたわけではないようです。
「ふむ。では、こうしよう。私は雨を降らせる、代わりにお前の娘を嫁に頂くぞ!」
蛇はそう言うなり、天に向かって首を振り上げ、舌をちろちろと出しました。それから尻尾で、地面をトントントンと三回叩きました。
すると急に黒雲が湧き上がって、村に雨が降り出したではありませんか!
「雨は一晩降り続き、川も田んぼも元通りになるだろう。では、明日の晩に嫁を迎えに行く。約束を違えたならば、更に雨を降らせて村を押し流してしまうぞ」
蛇はそう言うと、するすると草原の中へ消えて行きました。
雨は蛇の言葉通り一晩降り続き、すっかり川を元通りにしました。田んぼに水も溜まったし、川から水を引けるようになったし、もう何の心配もありません。男も村の人達も、これには大喜びです。
しかし、男は蛇との約束を思い出して項垂れました。というのも、男には息子しかおらず、娘がいなかったからです。とりあえず男は、三人の息子達に経緯を語って聞かせました。
「なんという約束をしたんだ。蛇はきっと怒って俺たちを殺してしまうに違いない!」
上のふたりの息子たちは口々にそう言って、男を責めました。けれども一番末の弟だけは、父親が項垂れているのを見て優しく言いました。
「俺だって親父のせいで大変なことになったとは思うけど、一応、俺が女に化けて行ってみるよ」
「達吉! お前、行ってくれるのか!」
「だって、仕方ねーだろ! 村が全部流されちまうわけだし。まったく、何でそんな約束したんだよ」
「ううっ、本当にすまねえ、達吉!」
「もういいよ。それより、瓢箪を百個ほど用意してくれよ。なんか、そういう話をきいたことあるんだ」
末息子の言葉に男は涙ながらに頷き、村中を駆け回って瓢箪を集めたのでした。
さて、翌日の晩です。身なりの立派な色男が、男の家を訪ねました。その色男こそが、昨日雨を降らせた白蛇だったのです。
「約束通り、嫁を迎えに来た」
蛇はそう言いました。女物の着物を着て顔を頭巾で隠した達吉は、静かに頷きます。その様子に、蛇は満足そうに笑みを浮かべました。
「では、私に付いて来い。…ところで、その瓢箪はなんだ」
「これは…私の嫁入り道具です」
達吉がそう答えますと、蛇は変な顔をしましたが、何も言わずにさっさと歩き出しました。達吉は慌てて百個の瓢箪をよいしょと担ぎ、その後を追いました。
達吉の作戦はいたって簡単なものです。蛇が住処の水の中へ潜るとき、瓢箪を投げ入れ、まず嫁入り道具を運んでくれと頼みます。しかし瓢箪は沈めても沈めても浮いてくるし、百個もあるのですから、あちらを沈めているうちにこちらが浮かび上がり、こちらを沈めればあちらが浮かぶという状態になります。その内に蛇は疲れるか観念するかして、達吉を家に帰してくれるでしょう。達吉はどこかの村の娘が、この方法で蛇へ嫁入りするのを断わったという話を聞いたことがあるのでした。
達吉は作戦を頭の中で何度も何度も繰り返しました。そうする内に、蛇はどんどん村から離れ、うっそうとした山の中へ入って行きます。
やがて大きな木の下へ来た時、蛇は足を止めました。瓢箪を運ぶのに疲れきっていた達吉は、これ幸いと木陰に腰を下ろしました。
「疲れたか」
「少し」
達吉が正直に答えますと、蛇は彼はじっと見ました。それから達吉に近付いて、その手を取りました。達吉は男とばれるのではないか、ばれたら殺されるのではないかと、心配でなりません。
「おぬし、名前は」
蛇が問いました。
「え、あ、た、たつき…たつです」
達吉はしどろもどろで答えます。あやうく本当の名前を言ってしまうところでした。
「そうか、おたつ。俺は白牙という」
蛇はそう言って笑いました。ちらりと口内に生えた鋭い牙が見え、達吉は名は体を表わすという言葉を思い出しました。
白牙と名乗った蛇は、掴んだ達吉の手を口元に運びました。食われるのではないかと達吉は焦りましたが、白牙はぺろりと手の甲を舐めただけで牙を立てたりはしませんでした。
「おたつ、歳はいくつだ」
「じゅ、十四」
「村に、誰ぞ好いた女子はおったか」
「いないけど…へ、女子?」
やっぱり正直に答えた達吉に、白牙はにやりと笑いました。
ばれている!
達吉は動揺し、慌てて白牙の手を振り解こうとしましたが、彼はしっかっりと手を握って笑うばかりです。そうやって笑っていても、もともと美しいつくりをした顔ですから随分とさまになります。その顔がだんだん近付いてきて、達吉が「あ、目はやっぱり蛇みたいな目なんだ」なんて呑気なことを思っている内に、蛇は達吉の口を吸いました。
驚いた達吉は白牙の体を押しのけようとしましたが、流石に神通力を持った蛇、ビクともしません。すぐに舌が入り込んできて、口の中を自由に動きまわりました。
「ん…っふ、ぅ」
白牙の腕が、達吉の着物の合わせ目に滑り込みました。まるで蛇が這うように、冷たい手が体中をまさぐります。
その感覚が心地よくて、体中から力が抜けるようで、達吉は白牙に縋りつきました。
「あ…ぁ、ん」
「そうだ。俺にすべてまかせればよい」
白牙が耳元で囁きました。
「平気か」
激しい行為の後、ぐったりと木に凭れ掛かった達吉に、白牙はまるで他人事のように尋ねました。
口を開くのも億劫な達吉は、首を項垂れることでそれに答えます。
達吉は混乱しておりました。まさか、こんなことになるとは思わなかったのです。形式としては嫁入りすることになっていましたが、まさか男同士であんなことを…。達吉は白牙の行為に驚きました。驚きましたが、けれど。
先程までの行為を思い出して体の奥が熱くなった達吉は、それを悟られないように着物の前を合わせました。顔は耳まで真っ赤です。白牙が白く冷たい手を伸ばして、こぼれた達吉の前髪をかきあげますと、まるでよく熟れた柿のようにますます真っ赤になりました。
「さて、おたつ。いや、達吉」
白牙の言葉に、達吉はどきりとしました。女の振りをして嫁入りしようとしたことは、すっかりばれているのです。
達吉は、蛇が怒り出して村を押し流してしまうと言うのではないかと懼れました。けれども、白牙はあっさりと言い放ったのです。
「村へ戻れ」
「は?」
すっとんきょうな声が出ました。達吉が首を傾げながら白牙を見ますと、彼は無表情で瓢箪を指差しました。
「私がその瓢箪を沈めることが出来なければ、村に戻ると言うつもりだったのだろう」
「うっ…いや、そんなことは……」
ずばり言い当てられて、達吉はもごもごと口の中で呟きます。白牙はため息をつきました。
「隣村に住む私の従兄弟が、それで嫁に逃げられてな。そんなに村に帰りたければ帰っていいぞ」
なんということでしょう。白牙には家を出るときから全てばれていたのです!
つまり、白牙は全て知っていて、住処の池まで行かずにこんな村外れの山の中で達吉に手を出したということです。
そのことに気づいた時、達吉の中でぶちりと何かが切れる音が聞こえました。
「ふざけんじゃねーぞ!! お前、人に手を出しておいて、村に帰れだとぉ?」
達吉は先ほどまでの疲労も何のその、自分よりも背の高い白牙の襟元を掴んで、前後に激しく揺さぶりました。
「人を騙してこんな所に連れて来て、することしたら帰れ? お前、人でなしか! このケダモノ! キズモノにされて、おめおめ村に帰れるわけねーだろ!」
実際、蛇である白牙は「人でなし」で「ケダモノ」なわけですが、そんなことに気づかずに、達吉は罵り続けます。
「お前、住処何処だよ!? ああ?」
「ちょ…絞まって…!」
「ああ? それくらいで死にゃあしないだろ! さっさと住処に連れてけよ! 俺もそこで住むんだからな!!」
「と、とにかく落ち着け」
白牙は興奮する達吉の腰に手を回し、するりと背中を撫でました。
「っひゃあ!?」
びりびりとした刺激が背筋を駆け上って、達吉は奇声を上げて、へたりと座り込みました。すっかり力が抜けてしまい、白牙の襟元を締め上げていた腕もぱたりと落ちます。
先ほどまで激しく揺さぶられていた蛇の化身は、襟元を正しながら達吉の横に跪きました。
「達吉、おぬし私のところに来てくれるのか? 村へ帰ったりしないのか?」
「だから村には戻れないって言ってるだろ。お前のせいでな」
「私は、達吉が嫁に来ると知りとても嬉しかったのだが、達吉は瓢箪まで持ってくるくらいだから村に帰りたいのかと…」
「そりゃあ、だって親父と娘を嫁にやるって約束をしたらしいけど、俺の兄弟に女はいないし。男が女の振りをしているのがばれないうちに村に戻ろうと思ったんだよ」
「そうか」
白牙は言うなり、がばりと達吉を抱きしめました。びっくりしたのは達吉です。少しひんやりと冷たい白牙の体温に、先の激しい行為を思い出して、再び真っ赤になりました。
「男でも良いんだ。達吉、私のところに来てくれるか」
顔のすぐ近くで、白牙の美しい顔がうっとりと笑います。達吉はもうドキドキして、湯気が出そうなくらい真っ赤になって頷きました。
「そういえば、白牙は俺のこと知ってたの?」
「ああ。達吉は覚えていないか。昔、蛇に助けられたことがあるだろう」
「…あ! 他の蛇に噛まれそうになった時に、白い蛇がその蛇を食べてくれたことがある。それが白牙なのか?」
「そうだ。その後、お前は饅頭を持ってお礼に来たのだ。それ以来、な」
「ふーん」
「それより達吉、体は平気か」
「何とか平気だよ。まったく無茶しやがって」
「すまぬ」
達吉が、そう申し訳なさそうに謝る白牙が本当はまったくすまないと思っていないことを知ったのと、蛇にはモノが2つあるということを知ったのは、2人が住処にたどり着いてすぐの頃だったといいます。
めでたしめでたし。
END
> [2006/11/10] > [2008/09/22 加筆修正] > [2016/05/15 加筆修正]
むかしばなしシリーズその2は、「へびへのよめいり」です。
昔話の「蛇への嫁入り」は、大きく分けて3パターンに分類できます。
どのパターンの話も面白いので、興味のある方は調べてみてください。3のパターンで三角関係でも面白いかもしれませんね。
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