ヴァルプルギスシリーズ

人気キャラ投票2位:スラン・スキップ

 スランは、舌打ちをしながら扉を閉めた。
 力の入れ具合を間違えたのか、ドアがけたたましい悲鳴をあげ、そのことにもう一度舌打ちする。
 まったく面白くない夜だった。
 こんな夜には、気分のままめちゃくちゃに暴れてやりたいと思う。けれども、そうするわけにはいかない。
 昔は暴れては次の村に引っ越すということを繰り返したこともあるが、スランにはこの村を引っ越すわけにはいかない理由があった。
 その理由というのは、この村が面している森の中にある。
 村人が恐れて足を踏み入れぬこの森をずっと奥まで入ってゆくと、ひとつの古びた屋敷があって、そこには歳経た吸血鬼が住んでいる。この吸血鬼こそが、スランがよその村へ引っ越したくはない理由であった。
 有り体にいえば、スランはその吸血鬼を愛しているのである。
 スランはさして良いつくりではないベッドにごろりと身を投げ出して、天井を見上げた。逆立てた紅い髪が、押しつぶされてあちこちにはねている。
 彼は天井をしばらく睨みつけていたが、その視線は天井をすりぬけて、別の情景を見ている。中天にかかる丸い月だ。
 まったく気の滅入る夜である。
 スランは意図的に別のことを考えようと、頭を働かせた。
 満月……血……咆哮……。
 連想は過去の光景を連れてきた。
 スランは肩から血を流しながら蹲り、眼前に立つ男を睨みつけている。男の背後には丸い月。銀色の髪がまるで糸のように細く光っている。顔は見えない。男からは強く血と死の匂いとが漂ってくる。ふと、男が何かを問うた…。
 あのときから死神という渾名の吸血鬼は、スランの心の片隅に住み着いてしまった。
 どうしようもなく、彼のことが恋しいと思う。
 自分でも恥ずかしい程に、彼のすべてが欲しくて仕方ないのだ。

「ライフィスト…」

 呟きは、静かに部屋の中へ消えてゆく。
 けれどもその囁きに堪えるかのように、銀色の濃い霧が窓の隙間から部屋の中へと入り込んできた。

END

あとがき

> [????]

人気キャラ投票で2位をとった記念ss。ふたりの出会いをほのめかす感じで。
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