ねずみのすもう 前書き

ご注意

  • ネズミ×ネズミ
  • パロディ/コメディ/人外(ネズミ)/リバ/性描写あり
  • 昔話「ねずみの相撲」のパロディです。昔話のパロなんて許せないと言う方はご注意下さい。
  • ネズミですが、性描写があります。擬人化ではありません。しかもリバです。
  • 追求したテーマは「餅の重要性」と「恩返し」。図らずも追求してしまったテーマは「ネズミという文字のゲシュタルト崩壊」です。
  • 苦手な方は、お戻りください。⇒TEXTTOP

ねずみのすもう

 あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
 ある日、おじいさんが山へ芝刈りに行くと、山の奥からなにやら掛け声のようなものが聞こえてきます。不思議に思ったおじいさんは、山を踏み分けて更に奥へと入っていきました。
 やがて、おじいさんは少しひらけた場所を見つけました。声はそこから聞こえてきます。木の陰から覗き込みますと、ネズミが二匹、がっぷり四つに組んで相撲をとっているではありませんか。
 片方のネズミは体格がよく、真っ黒な毛並みが男らしさを感じさせます。もう一方のネズミは細身で、灰色の毛は少しくすんでおりました。

(おや、あの灰色のネズミは、わしの家のネズミじゃないか)

 おじいさんはそう気づきました。よくよく見れば、体格のよい方のネズミは長者の家のネズミです。
 おじいさんは、心の中で自分の家のネズミを応援しました。けれども、体格があまりにも違う灰色のネズミは、簡単に転がされてしまいます。結局、おじいさんの家の灰色のネズミは、三度の取り組みのうち三度とも負けてしまいました。
 黒いネズミは、肩で息をする灰色のネズミに向かって、にっこりと微笑みました。どこか人好きのする――彼はネズミなので、ネズミ好きのすると言いましょうか――笑顔でした。
「おれの勝ちだな、アオ」
 そう言って、黒いネズミは灰色のネズミに手を伸ばします。どうやら、アオというのが灰色のネズミの名前のようでした。
 灰色のネズミは悔しそうにその手を睨みましたが、「そういう約束だろう」という黒いネズミの言葉に、ぐっと息を呑みました。
 黒いネズミは遠慮なく灰色のネズミをうつぶせに押し倒し、その首元に自らの鼻先を押し付けました。うつぶせた身体に覆いかぶさるように体重をかけると、灰色のネズミは一瞬ビクリと毛を逆立てました。
「あ、んんっ、クロっ!」
 灰色のネズミは抵抗するように身じろぎましたが、自分よりも体格のよい黒いネズミ相手に、さしたる効果があろうはずもありません。黒いネズミは思う存分舌を動かして、灰色のネズミを可愛がりました。
 ただでさえ小さい体をいっそう縮めてふるふると震える灰色のネズミは、何ともいえない色気に溢れていて、黒いネズミは口中に溜まった唾を飲み込みました。
「アオ…可愛い」
「ん、やぁ…ん」
「くっ…アオ、アオ」
 黒いネズミは灰色のネズミの名を呼びながら、腰を振りました。

 おじいさんは、びっくりしてしまいました。当然です。二匹のネズミが相撲を取っていたかと思えば、今度は片方がもう片方の背に乗っかって腰を振り始めたのですから。けれども去るに去れず、おじいさんは木の陰に隠れたまま様子を窺っておりました。
 やがてコトを終えたネズミたちは、互いに毛づくろいを始めました。黒いネズミが、ぐったりとした灰色のネズミをぺろぺろと舐めて毛並みを整えています。灰色のネズミは、くすぐったそうに笑いました。
「もういいですよ、クロ」
「いや、もう少し」
 黒いネズミは、それこそ文字通り灰色のネズミの頭の天辺から爪先まで舐めて毛づくろいした後、灰色のネズミの顔に自分の顔を近づけて、スンスンと鼻を鳴らしました。
「大丈夫か?」
「自分でしておいて…」
 灰色のネズミは呆れて言葉をもらしましたが、黒いネズミにもたれかかるように起き上がります。
「どうして、いつも私が下なんです」
「どうしても何も、そういう約束だろう。ちゃんと相撲をとったじゃないか」

(ははあ、どうやら相撲で負けた方が下になる約束のようじゃな)

 おじいさんは納得しました。
 そして、相撲に負けた自分の家のネズミを思いました。相撲に負け、更に押し倒されるなんて、ひどい屈辱に違いありません。同じ男として、おじいさんには痛いほど気持ちが分かりました。
 おまけに、相手が長者の家のネズミというのが、どうにも悔しくてなりません。実はおじいさんと長者はその昔、おばあさん、つまりおじいさんのお嫁さんを巡って争った、恋敵の関係でした。おばあさんは、おじいさんを選びましたが、残念ながら二人には子がおりません。長者は事あるごとにそれを指摘します。おじいさんは、それが悔しくて悔しくて堪らなかったのです。
 灰色のネズミを勝たせてやりたい。おじいさんは、そっとその場を離れました。

 家に帰ってきたおじいさんは、山の中での出来事をおばあさんに話して聞かせました。
「だから、わしはウチのネズミに頑張って欲しくてなぁ」
 おじいさんがそう言うと、おばあさんはにっこりと笑って答えます。
「それなら、正月用にとっておいた米で餅をつくりましょう。餅を食べれば、きっと力が湧くはずです」
「しかし、それは正月用の米だろう。よいのか?」
「ええ。ウチに住んでいるネズミはならば、私たちの家族のようなものではありませんか。食べさせてやりましょう」
 自分たちの正月用の餅がつけなくなるかもしれないというのに、おばあさんは優しく笑いました。その笑顔を見て、おじいさんは、やっぱりこの女性を嫁にしてよかったと、心の底から思ったのでした。
 おばあさんの了解を得て、おじいさんは早速、餅をつきました。おばあさんがそれを丸めて、皿にのせていきます。
 それから、完成した餅をよくネズミの姿を見かける棚の上に置いて、二人でネズミを呼びました。
「ネズミやい、餅食って頑張ってくれ」
 その呼びかけに返事はありませんでしたが、翌日、餅はひとつ残らず食べられておりました。

*****

 翌日もおじいさんは、山へ出かけました。昨日、二匹のネズミが相撲を取っていた場所へ向かうと、やはり掛け声が聞こえてきます。おじいさんは、昨日と同じように木の陰から覗き込みました。
 そこでは、黒いネズミと灰色のネズミが、昨日と同じように相撲をとっていました。長者の家の黒いネズミは、相変わらず立派な体躯をしています。一方おじいさんの家の灰色のネズミは、体躯こそ昨日と同じように細く小さかったのですが、そのくすんだようだった毛並みが、今は輝かんばかりにツヤを帯び、秘めた力を感じさせました。餅を食べたからに違いありません。

(よしよし、これなら勝てるかもしれん。頑張れよ!)

 おじいさんは昨日と同じように、心の中で灰色のネズミを応援しました。
 その応援が聞き届けられたのでしょうか。灰色のネズミは、自分よりも大きな黒いネズミをころりと転がしました。二匹のネズミは三度取り組み、今日は三度とも灰色のネズミが勝ったのです。
 灰色のネズミは、黒いネズミににっこりと笑いかけました。爽やかな笑顔でしたが、それを見た黒いネズミは怯えたように後ずさりしました。
「さて、クロ。今日はいつもと逆ですね」
「待て待て待て。もう一度、もう一度勝負しようじゃないか」
 黒いネズミは慌てて言いましたが、灰色のネズミの「そういう約束でしょう」という言葉に、ぐっと息を呑みました。
 灰色のネズミは黒いネズミの前にちょこんと座り、やおらその股間に顔を近づけました。ぺろぺろと毛づくろいするように舐めますと、黒いネズミはびっくりしたのか、僅かに体を揺らします。
「…っく、ん」
「我慢しないでいいんですよ」
「! 誰が…っ!」
 その言葉に灰色のネズミは笑い、黒いネズミの体をうつ伏せに押し倒しました。すっかり力の抜けていた黒いネズミは、あっけなく倒されてしまいました。
「うわっ」
 そこに灰色のネズミのものが押し当てられますと、黒いネズミはギュッと目を瞑りました。灰色のネズミはそのまま黒いネズミの上に乗っかります。
「ああ、アオっ」
「ん…クロ、気持ちいい」
 灰色のネズミは、うっとりと黒いネズミを呼びました。
 おじいさんは、その様子をうんうんと頷きながら見ていました。これで灰色のネズミの「男の矜持」も保たれたことでしょう。何より、あの憎き長者をこらしめたようで、気持ちが晴れ晴れとしています。
 その内、二匹はコトを終え、毛づくろいを始めました。毛づくろいがすむと、灰色のネズミは黒いネズミに体をすり寄せ、黒いネズミはそれを支えるように起き上がりました。
「どうして今日は、そんなに強かったんだ」
 少し拗ねたように、黒いネズミが訊きました。
「昨日、おじいさんとおばあさんが、餅をついて食べさせてくれたんです」
「いいなぁ。ウチは食べ物は沢山あるが、ケチだから餅なんてまったく食べさせてくれない。そうだ、今日そっちの家に行くから、おれにも餅を食べさせてくれないか」
「駄目ですよ。ウチは貧しくて餅なんてそうは食べられないんです。これ以上、おじいさんとおばあさんにご迷惑をおかけするわけにはいきません」
「金ならウチに沢山あるのになぁ」
 その後もネズミ達は何か話をしているようでしたが、おじいさんはそこでその場を離れました。そろそろ家に帰らねばならない時間だったのです。

 家に戻ったおじいさんは、少し考え込みました。
 ついついウチのネズミを応援してしまったが、あの黒いネズミにだって「男の矜持」はあるわけで。おまけにあのネズミだって偶然長者の家に住み着いたというだけで、何も長者の血縁者というわけではない。すまないことをしてしまっただろうか。それに、長者はケチで卑しい男だから、きっと餅なんて食べさせてもらえないだろう。
 おじいさんは、あの黒いネズミにも餅をついてやろうと決心しました。おばあさんにその話をすると、おばあさんも快く同意してくれました。
 なのでおじいさんとおばあさんは、最後の米を出してきて餅をついたのです。それを昨日と同じ場所におき、同じように呼びかけました。
 相変わらず返事はありませんでしたが、翌日、餅はすっかり無くなっていました。

*****

 さて、翌日の夜のことです。天井裏からなにやら物を引きずっているような音がします。不思議に思ったおじいさんとおばあさんが天井を見上げておりますと、金色に光るものが落ちてきました。
 拾い上げてよく見ますと、なんと小判ではありませんか!
 二人が驚いていると、そこへもう一枚の小判が落ちてきました。それっきり音はしません。おじいさんが慌てて扉を開けると、夜の闇に紛れるように、黒い毛並みのネズミが走り去って行きました。この小判は、黒いネズミのお礼だったのです。

 その後、おじいさんは山へ入っても、もうネズミの相撲を見ることはなくなりました。ですが、きっと山の何処かで、二匹のネズミは良い勝負を繰り広げていることでしょう。
 そういうお話でした。

END

あとがき

> [????] > [2016/06/12 加筆修正]

むかしばなしシリーズその1、「ねずみのすもう」です。
”おじいさんが、ネズミたちの営みをデバガメする”という、「鼠の相撲」に忠実な展開で書きました。あ、元ネタの「営み」ってもちろんエロくない方の意味ですよ。

もともと隠しページにあった作品ですが、ネズミだしという理由で、少しエロ風味を無くす方向で修正して、表にアップしました。
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