知念的孫策(周喩)像:前書き

ご注意

  • 個人的にお世話になった橘さまへお礼ss。
  • 管理人の策瑜イメージです。実在した歴史上の人物でアレコレ考えちゃうのが苦手な方はご注意下さい。とはいえ、三国志にあまり詳しくない管理人の書く、三国志ssです。あまり期待しない方が無難です。
  • その1とその2は繋がっていません。時系列的にはその2→その1かな。
  • 苦手な方は、お戻りください。⇒TEXTTOP

知念的孫策(周喩)像

その1

 少し頭を冷やせと言われた。
 公瑾にだ。

『伯符様におかれましては、少々お時間が必要なご様子』

 癪に障ったが、そう話す彼の手が微かに震えているのに気づいたから、おれは大人しく幕営を出てきた。珍しくあれも頭に血が上っている。
 互いに少し時間をおいた方が良い、ということだろう。お互い甘えていたところがあるかもしれない。
 愛馬の鼻面を撫でてやりながら、ため息を吐き出した。
 いつだって何かを実感するのは、ことを終えて冷静になった時だ。
 例えば、重い手ごたえ。
 握りしめた柄を通して受けた感触が、重いものだったと実感するのは、実際に剣を叩きつけたしばらく後だ。
 ぶつりと皮が切れる音。
 刃が肉に食い込む音。
 骨が砕ける、あるいは折れる音。
 そのどれもが、実際にそれが行われている場においては、何一つ明瞭におれの中に飛び込んでは来ない。
 噴き出す血、肉片。
 皮だけでつながった首。
 はじけ飛ぶ眼球。
 それらも同様だ。
 目を閉じればすぐにも脳裡に描き出せるそれをおれが知るのは、凱旋を上げる段になってからだ。手綱を操る手に、先ほどまで握っていた柄の硬さが甦ってくる。それはすなわち、切りつけた肉の硬さである。顔に降りかかる血の熱さ。それとは対照的な自らの手の冷たさ。そして、それらを隙間なく塗りつぶすほどの勝利の快感。
 青ざめた公瑾の顔を見たときなどは、もっと愉快だ。あれは、おれのように腕に残る感覚を快楽で塗りつぶせない。だからこそ安心する。あれの側にいれば、おれは大丈夫だろう。
 それまで大人しくしていた黒馬が、鼻を鳴らした。じっとしているのに疲れたらしい。
 もう一度、首を撫でてやって、おれはその背に跨った。
 そろそろ幕営に戻らねば、今度は逆にどこへ行っていたのだと小言を言われるに違いない。

END

その2

 想像を絶する力で、指が顎に食い込む。
 それを屈辱的だと思うと同時に、相手の目に潜んだ狂気を見たような気がして、背筋がぞくりと震えた。
 手を振り払い、睨みつけるように覗き込んだ眼の内に、もちろん、狂気などありはしない。いつもの彼らしい不敵な笑みを浮かべて、伯符様は逃げるなよと呟いた。

「逃げるなどと」

 零れた言葉に、彼は笑う。豪快な笑い方だった。自分にはとてもそのような笑い方はできぬと思う。
 ああ、けれど。
 先ほど瞳の中に見つけた狂気、あれは本当に見間違いであろうか。
 伯符様は笑いをおさめると、床に腰かけたまま右足を持ち上げて、胡坐をかくように左足の上にのせた。それから挑発するように私を見て、薄く笑う。

「おれが怖いか、公瑾」

 彼は笑っている。私がどう答えるかなどお見通しだといわんばかりだ。いや、彼は何もかも知っているに違いない。
 私が怖いのは、颯爽とした彼の裡にすら狂気を見出してしまう自分自身だ。ゆえに私は笑みを浮かべ、素直に答えた。

「いいえ、伯符様」
「なら来い」

 彼は姿勢を変えぬまま、右手を差し出した。その手をそっと取ると、逆に手首を掴まれて引き寄せられる。再び顎にかかった手を、今度は払いのけなかった。

「おれはお前を怖いと思うよ、公瑾」

 唇が重なる直前、そんなことまったく思っていないような声音で、彼は言った。

END

あとがき

> [2007/07/23] > [2009/03/25 加筆修正]

本当にその節はお世話になりました、橘さま!ありがとうございます!!また行きましょう!(笑)
私の中では、瑜よりも策の方がしっかりしていて大きなオトコです。

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